大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 平成5年(オ)317号 判決 1997年1月28日

上告人

丸友青果株式会社

右代表者代表取締役

北形良作

右訴訟代理人弁護士

奥村回

被上告人

野村敏

右訴訟代理人弁護士

敦賀彰一

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人奥村回の上告理由について

原審の適法に確定したところによれば、上告会社の昭和六三年六月の新株発行については、(一) 新株発行に関する事項について商法二八〇条ノ三ノ二に定める公告又は通知がされておらず、(二) 新株発行を決議した取締役会について、取締役北形実に招集の通知(同法二五九条ノ二)がされておらず、(三) 代表取締役北形良作が来る株主総会における自己の支配権を確立するためにしたものであると認められ、(四) 新株を引き受けた者が真実の出資をしたとはいえず、資本の実質的な充実を欠いているというのである。

原判決は、このうち(三)及び(四)の点を理由として右新株発行を無効としたが、原審のこの判断は是認することができない。けだし、会社を代表する権限のある取締役によって行われた新株発行は、それが著しく不公正な方法によってされたものであっても有効であるから(最高裁平成二年(オ)第三九一号同六年七月一四日第一小法廷判決・裁判集民事一七二号七七一頁参照)、右(三)の点は新株発行の無効原因とはならず、また、いわゆる見せ金による払込みがされた場合など新株の引受けがあったとはいえない場合であっても、取締役が共同してこれを引き受けたものとみなされるから(同法二八〇条ノ一三第一項)、新株発行が無効となるものではなく(最高裁昭和二七年(オ)第七九七号同三〇年四月一九日第三小法廷判決・民集九巻五号五一一頁参照)、右(四)の点も新株発行の無効原因とならないからである。

しかしながら、新株発行に関する事項の公示(同法二八〇条ノ三ノ二に定める公告又は通知)は、株主が新株発行差止請求権(同法二八〇条ノ一〇)を行使する機会を保障することを目的として会社に義務付けられたものであるから(最高裁平成元年(オ)第六六六号同五年一二月一六日第一小法廷判決・民集四七巻一〇号五四二三頁参照)、新株発行に関する事項の公示を欠くことは、新株発行差止請求をしたとしても差止めの事由がないためにこれが許容されないと認められる場合でない限り、新株発行の無効原因となると解するのが相当であり、右(三)及び(四)の点に照らせば、本件において新株発行差止め請求の事由がないとはいえないから、結局、本件の新株発行には、右(一)の点で無効原因があるといわなければならない。

したがって、本件の新株発行を無効とすべきものとした原判決は、結論において是認することができる。論旨は、原判決の結論に影響のない事項についての違法をいうものにすぎず、採用することができない。

よって、民訴法三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官可部恒雄 裁判官園部逸夫 裁判官大野正男 裁判官千種秀夫 裁判官尾崎行信)

上告代理人奥村回の上告理由

一 原審は、乙事件につき、原則として第一審判決の理由を引用している。

一方、上告人は、乙事件につき、一九九一(平成三)年五月二八日付準備書面(添付書面を含む)、同年一二月一八日付準備書面及び一九九二(平成四)年六月三〇日付準備書面において、第一審判決の各理由につき、具体的事実・証拠を指摘しながら、反論した。右反論は、第一審判決の各理由の結論に対する事実誤認の主張とともに、その結論に至る前提事実の事実誤認並びに上告人が指摘した事実を判断材料としていないという理由不備ないし理由齟齬の主張であった。

しかしながら、原審は、上告人の右第一審判決の理由不備等に関する具体的反論につき、なんら判断せずに第一審判決の理由を引用して判断したもので、結局、第一審判決と同様に、理由不備、理由齟齬と言わざるを得ないものである。

二 右理由不備等の点を、具体的に略記すると以下の通りである。

1 新株発行の通知・公告及び取締役北形実への取締役会開催通知の不備の点につき、上告人は、前記五月二八日付準備書面の添付書面の二及び三並びに前記六月三〇日付準備書面の第二の二の1で、当時の会社内状況を踏まえた反論をしているが、第一審判決及び原審ともにこれらについての判断が存在しない。

2 次、本件新株発行の目的につき、第一審判決は、いくつかの理由を挙げて、もっぱら上告人社長北形良作の会社支配維持のための不公正な発行とした点につき、上告人は、前記準備書面等において、本件新株発行が、北形実らに秘してなされたかの点、六月四日付株主総会招集通知に対する判断の誤り、新株発行に至る経緯と新株発行の必要性等につき、具体的事実を指摘して反論をしているが、これについても原審はなんらの判断を示していない。

3 見せ金云々についての判断についても、上告人は、前記準備書面等おいて、会社への入金状況とその必要性及び使途等につき、具体的に事実を指摘して反論しているにも拘らず、第一審判決も原審も、なんらの判断をしていない。

三 原審は、第一審判決を引用しながら、北形良作の引受分(九〇〇万円)についても、また、西孝夫引受分のうち会社の各種費用として使用されている部分等についても、資本充実に欠けると判断しているが、これらについても、上告人は、前記準備書面等において各支払の内容等を指摘して、資本充実に合致している旨反論しているが、何故、上告人の反論が取り得ないのかの理由が不備である。

さらに、第一審判決及び原審ともに、新株発行によって入手された資金がどのような使途とされるべきかについての解釈、ひいては会社法における資本充実とは何かについての法解釈につき、誤りを犯しており、これが判決に影響を及ぼすこと明らかである。

四 更に、原審及び第一審判決は、右のような個々的な争点等に対する判断を誤ったりした結果、まず、どのような場合に新株発行が「著しく不公正な方法による」新株発行となるかの判断(大阪地裁堺支判昭四八・一一・二九)や同じく、会社の資本充実を目的とする引受担保責任と新株発行無効との関係についての法解釈や判例(最高裁第三小法廷昭和三〇年四月一九日判決)等の解釈、ひいて新株発行無効理由についての法解釈につき、誤りを犯し、結果として判決に影響をおよぼしているものである。

五 次に、原審は、上告人による本件新株発行の一部無効という主張につき、結局は、すべての払込みが資本充実に資さないとの理由で排斥した。

右の理由そのものが、事実を誤認したり理由不備と言うべきものであったり、また結論として法解釈を誤るものであることは、右に述べた通りであるが、更に、会社法と現実の小規模な会社(しかも同族会社)との間のズレ、その他上告人が前記準備書面等で述べたこと(本件事件以降の事情等も含め)等を総合的に考慮すれば、新株発行の無効を判断するについては、形式的な組織行為論によるのではなく、会社実態も考慮した上での一部無効という法解釈が妥当すると言うべきである。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例